馬ではなく水牛!? ゴロゴロ泥まみれが趣味! ネコパンチの悠々自適なせいかつ(2)

2025年04月29日(火) 18:00

第二のストーリー

メトが気になるネコパンチ(提供:ノーザンレイク)

人間側はやれやれ…パンチの趣味

 ネコパンチがノーザンレイクに来た当初、環境に慣れるまで厩舎近くのパドックに放牧していた。観察していると盛んに前脚で地面を掘り始めた。草が生えていたその場所があっという間に土が剥き出しになり、パンチはウーッと唸りながら前脚を折り畳んで姿勢を低くしゴロンと寝転がった。体を地面に擦りつけたのちに立ち上がると、間髪入れずにまた唸りながら寝転がる。そして地面に体をスリスリゴロゴロしていた。パンチはその場所で寝転がると決めたようで、そこにはゴロゴロするにちょうど良い窪みができていた。

 新しい環境にも慣れてきてメイショウドトウ(認定NPO法人引退馬協会)の隣の放牧地に放すようになると、ここでも同じように寝転ぶ場所を掘って作った。かなり深く掘ったのは出入り口付近。もう1か所は出入り口を背に左奥の手前あたりで、やはりパンチが草ごと掘って土が露出していた。その2か所でパンチは嬉々として今もゴロゴロ転がっている。

 晴れが続いて地面が乾いていれば良いのだが、雨が降ると人間側が大惨事になる。というのもパンチが掘った場所に水溜まりができ、そこで好んで寝転がるからだ。まずは前脚で水溜まりをバシャバシャ。割と脚を高めに上げてバシャバシャやるものだから、水が大きく跳ね上がりそれだけで馬体が汚れる。そして水溜まりに浸かるように寝転がり、起き上がると泥水で濡れた馬体がテカテカ光っている。

第二のストーリー

水たまりをてくてく歩くネコパンチ(提供:ノーザンレイク)

 前回書いたように当初は見学者には塩対応だったが、時間の経過とともに徐々に柵際まで寄って来るようになった。見学者が遠くにいると、自分の方にも来てと言わんばかりに柵に沿って行進してアピールしていた。雨降りの後などは時折こちらにチラチラ視線を送りながら水溜まりをわざわざ歩いて猛アピールし、脚や体に汚れが上塗りされていく。暖かい季節なら丸洗いできるのだが、初春や秋、冬(今年は雪がほとんど積もらなかったので雨で水溜まりができていた)などまだ気温が低い時にはブラッシングなど人の手で何とかしている。

 だがある日、水溜まりで寝転んでは泥まみれで帰ってくる姿を前にしたパンチのお手入れ担当の川越(ノーザンレイク代表)は「お前はもう馬ではない。水牛だ!」と言い放った。あまりの汚さに思わず出た言葉だったが、当のパンチはしれっとしていて悪びれた様子は感じられなかったし、当然ながら同じことを繰り返して今に至っている。

第二のストーリー

お手入れ担当もうんざりするほど泥まみれ…(提供:ノーザンレイク)

 パンチは食欲がものすごく旺盛だ。飼い葉やおやつの気配がするといの一番に嘶く。食べるからボロ(馬糞)も馬一倍する。水(寒い時期はお湯)もゴクゴク飲む。さらに馬房でも放牧地でもよく寝る。見学者がいても平気で放牧地で横になって寝ている。そばに行くと唸り声みたいなイビキが聞こえる。

第二のストーリー

爆睡中のネコパンチ(提供:ノーザンレイク)

 よく食べ、よく寝て、泥だらけになって...。パンチは案外良い余生を送っているのかもしれないと思うこともあるが、飼養者側がこう考えてしまうのは驕りではないかとも感じる。人間には馬の気持ちがすべて理解できるわけではないし、私自身、馬にとって何が1番良いのかまだ答えが出せないでいるからだ。恐らく永遠に答えは出ないだろうけど、ドトウやパンチほかノーザンレイクの馬たちが少しでも気分良く快適に過ごせるよう、目の前の馬たちの声なき声を聞いて1頭1頭と真摯に向き合っていきたい。

(了)


※見学要予約

お問い合わせは競走馬のふるさと案内所まで

https://uma-furusato.com/

ノーザンレイク公式X

https://x.com/NLstaff

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佐々木祥恵

北海道旭川市出身。少女マンガ「ロリィの青春」で乗馬に憧れ、テンポイント骨折のニュースを偶然目にして競馬の世界に引き込まれる。大学卒業後、流転の末に1998年優駿エッセイ賞で次席に入賞。これを機にライター業に転身。以来スポーツ紙、競馬雑誌、クラブ法人会報誌等で執筆。netkeiba.comでは、美浦トレセンニュース等を担当。念願叶って以前から関心があった引退馬の余生について、当コラムで連載中。

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